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戦国時代の記録(2)『おきく物語』
これは1615年(元和元年)の大坂城落城のとき、城内にいた菊という20歳の女性の体験を、後年になって聞き書きしたものですが、記録者については不明です。なお、菊という女性は池田家の医師・田中意得の母親で、83歳のとき故郷・備前で没しました。
前回の『おあむ物語』と比べると、こちらは候文で書かれているせいもあってか物語の楽しさにはいささか欠けています。しかしおもしろいのは、落城のさい城内にいたにもかかわらず、下女に「そば焼き」を言いつけてそれを待っていると、玉造口をはじめ方々に火の手が上がっているので大騒ぎとなり、ようやく危機が迫っているのを知った、という信じられないような記述です。また、城外に脱出するときにも意外や意外、武士たちの姿は(ひとりを除いて)いっこうに見かけないこと、さらに戦闘シーンや戦死者の姿も目撃しなかったという事実によって、あの歴史的な大坂城攻防戦にもかなりのエアポケット的空間があったことがわかることでしょう。
この物語が創作であれば、もっとも華々しい戦闘場面や落城の大混乱をことさらに記述するでしょうが、こうした拍子抜けするようなエピソードによって、わたしたちは逆に歴史的真実がもつ皮肉を知ることができるのかも知れません。
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